※「確かに心まで飾った方がいい」の続きです。
「今度こそ見てろよ……」 「またアルか?」 「ていうか前回は失敗したんですね」 気合い充分、デートに向けて鏡の前で髪をセットする銀時に神楽も新八も冷ややかな反応。伊達眼鏡を掛けていることにもネクタイを締めていることにもツッコミを入れてはくれない。一抹の淋しさを感じつつも待ち合わせの時間だからと家を出る銀時であった。
こちら万事屋法律事務所
「お待たせしました土方さん」 「あ?」 太陽はこの星の真裏を照らし、仄かな月明かりを掻き消すほど人工の光が煌々と輝きだす時分。橋桁に凭れ紫煙を燻らせていた土方は、現れた待ち人の待ち人らしからぬ言葉遣いに眉を潜めた。 「万事屋法律事務所の弁護士、坂田と申します」 「……は?」 この寒い日に扇子を広げ、何故だか勝ち誇ったような笑みを浮かべた男は、自称した職業に不釣り合いの胡散臭さを纏っている。小豆色の背広も、アロハシャツのような柄の青いネクタイも、赤縁眼鏡も、横分けに撫で付けた銀髪も、全てが嘘っぱち。本職の方が見たらそれこそ訴訟ものではなかろうか。 「ああはいはい坂田さんですね。どうぞよろしく」 だが土方は付き合ってやることにした。今宵は恋人と甘美な時を過ごす予定であり、これはきっと、そのためのお遊びなのだから。 普段と異なる雰囲気に酔いやすいのか、閨にコスプレを持ち込むと従順でしおらしくなる銀時。終わった後は心底悔しそうにしていたので不本意なのだとばかり。けれども今、自ら進んで成り切っているということは、今夜は大人しく抱かれたい気分なのであろうか…… 「では行きましょうか」 「はい」 上機嫌で扇子を振りつつホテル街へ向かう「坂田弁護士」の後を、咥えた煙草を上下しながら土方はついていった。
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行きつけの宿に入り、すぐさま銀時をベッドへ押し倒そうとすれば額をぺしり。ここは「事務所」だと窘められて、渋々設定に従いソファーに腰を下ろした。 勿論ここは事務所などではないから他に椅子などなく、土方の隣に「弁護士」も座る。 「安心して下さい土方さん。アナタの無実は必ず証明してみせます」 「よろしくお願いします」 なるほど自分は依頼人らしい。敵対する検事等ではないことから、優しくされるのが望みなのだと結論付けて、土方は期待に胸も下半身も膨らませていった。 「何ニヤついているんですか?」 「ああ、すいません」 「そんなことだから痴漢に間違われるんですよ」 「…………」 が、すぐに萎まされる。どうやらコスプレで辱められた借りをコスプレで返す気のようだ。己に非があるわけではなく、銀時が勝手にノッただけではないか。ついでにそれを、トッシーが勝手に電脳空間へ拡散しただけ。自分は全く悪くない。 納得できない土方を置いて、銀時は演技を続ける。 「土方さん、携帯電話を見せて下さい」 「あ?ああはい」 罪を晴らすなら礼として、晴らせなければ報復として襲ってやる――今後の計画を脳裏で練りながら、土方は弁護士へ携帯電話を手渡した。 「これはマズイですねぇ」 「ん?」 手元の画面に映し出されたのは銀時のあられもない姿。これまでの逢瀬で土方が密かに撮り貯めたものである。本人もこの画像の存在を知ってから幾度か消去を頼んだが叶わず、寧ろ増えていく始末。 だから土方は少しも表情を変えずに言う。 「何がマズイんです?私がそこに写る人以外に興味はないという証拠ですよ?」 それにはやや顔を赤らめて、それでも否と首を振った。 「こんなにエロい奴なら痴漢して当然だと思われてしまいますね。消しておきましょう」 「は?てめっ――」 慌てて奪い返すも時既に遅し。画面には「画像がありません」とのメッセージが表示されていた。 初めからこれが狙いだったのだ。用は済んだとばかりに銀時は「これで無罪は確実です」などと楽しそうに肩を叩く。 「ありがとうございます坂田弁護士……」 「いえいえ礼には及びませんよ」 目的を遂げて満足している銀時には、抑揚のない礼の言葉も敗者の台詞にしか聞こえず、静かな怒りには気付かなかった。 「でも弁護士が証拠隠滅なんてしていいんですか?」 「異議あり!証拠隠滅とは人聞きが悪い。無実を証明するための情報整理ですよ」 「物は言いよう……流石は敏腕弁護士さんですね」 「なんのなんの」 困ったらいつでも相談に来なさいなどと有頂天の坂田弁護士。調子に乗せれば乗せるほど、貶め甲斐があるというもの――不敵に笑って土方は銀時の肩を抱いた。 「実はもう一つ相談に乗ってほしいことがあるのですが」 「ん?何かね?」 「DVで訴えられそうなんですよ」 「ちょっ……」 土方は銀時を担ぎ上げるとベッドへ投げ倒した。そして即座に両膝の上へ乗り、急展開で白黒させる瞳をにっこりと見下ろす。 「この程度じゃDVだなんて言えませんよね」 「あっ相手の方がDVだと感じたら、DVだと思いまーす」 「相手は喜んでいますよ」 「そっそれなら大丈夫ですね。良かった良かった……」 この場合の「相手」とは自身に他ならない。喜んでなどいないと反論したかったけれど、土方の迫力がそうはさせてくれなかった。 一先ず円満解決ということでこの場を収めようとした銀時であったが、 「でもその証拠はさっき、弁護士さんに消されてしまったんですよね」 「あ……」 土方の復讐計画の前に撃沈。ここから先は容易に想像がついた。 「今から弁護士さんに同じことするんで、DVじゃないってこと証言して下さいね」 「……はい」 予想通り。お約束のエロ展開。 すること自体は吝かではないのだけれど、冤罪で捕まった哀れな男を慰める感じの、もしくは写真などなくとも実物があるからいいではないかという感じの……そんなちょっとしたサービスをしてやるつもりだったのに。 「趣味のいいネクタイですね」 「ど、どうも」 ネクタイは抜き取られたがいっそう息の詰まる心地がする。しかし、抵抗はしないまでもこのまま好き放題にさせるつもりはなかった。 自分の恥ずかしい写真を処分するのは当然のことではないか。そもそもあんなものを撮った土方が悪い。少しでも乱暴にしやがったら強制終了。お預けを食らわせてやる――レンズ越しに涼しげな眼を睨み付け、銀時も宣戦布告。 「で、これからどうしたんです?」 挑むような視線に右の口角を上げ、土方はネクタイを掴んだまま銀時の両手を取った。
(15.02.22)
初めての弁護士です!……いや、単なるコスプレですが^^; そして本日(2月22日)は猫の日なので背景は猫にしました。 続きは18禁となります。アップまで少々お待ち下さいませ。
追記:続きはこちら(注意書きに飛びます)→★ |