『えー、カレのケータイですかぁ?見ますよ、フツーに』
『フツーだよねー?』
『私は見なーい。……ってことにしてるぅ』
『それ結局見てんじゃん』
『きゃはははは……』
昼間、何の気無しに見ていた情報番組の一コマ。恋人や旦那の携帯電話を密かにチェックして
いるかについての街頭インタビュー。
女って怖ェな、ケータイなんて持たなくて正解だな、つーか俺「女」いねェから関係ねェな……
そんなことを思いながら見ていたテレビ。
銀時はその内容を夜になってふと思い出した。
恋人の携帯電話
万事屋のテーブルに置かれた携帯電話がメールを受信したのか、短い時間震えて止まった。
テーブルごと震えたブーッというバイブレーションの音。それさえなければそこに置いて
あることすら気にも留めなかった。
(浮気なんか有り得ねェとは思うけど……)
電話の持ち主は土方十四郎。銀時と土方は恋人同士。今は所謂「お家デート」の真っ最中。
土方は入浴中で、その前に携帯電話も含めて煙草やライターなど懐のものをテーブルに出して
いくのはいつものこと。財布の中身を確認して翌日奢ってもらう店の参考にしたことはあったが、
今まで携帯電話の存在を気にしたことなどなかった。
真面目な土方のこと、銀時に見られて困るような事態などあるはずがない。疑っているわけでは
ないが、自分への愚痴とか惚気とか、そんなことでもあったら面白いと思ってしまった。
銀時は二つ折りの携帯電話を手に取った。
操作方法は以前、定春から出てきた携帯電話を使用した時に覚えたから大体分かる。
(……パスワード?)
だが、メールの閲覧は暗証番号入力画面に阻まれてしまった。
銀時は真っ先に土方の誕生日「0505」を入力してみたがハズレ。十四郎という名前に因んだ
「1046」もハズレだった。
(マヨネーズ……は数字にゃできねーし、タバコ……も無理だな。あとアイツの好きなもん
といえば……そうだ!)
ちょっとドキドキしながら自分の誕生日「1010」を入力したがハズレ。
自惚れ甚だしいと、誰も見ていないが恥ずかしくなった。
(まさかゴリラの誕生日とか?……あ、俺ゴリラの誕生日知らねーや)
その後は適当に数字ボタンを押してみるも、そんなことで一万分の一の確率は当たるはずもなく、
「くっそ、分からねー!」
「何がだ?」
「パスワードが……あっ……」
携帯電話の持ち主が入浴を終えて戻ってきた。
手には冷えた缶ビール。土方は特に表情を変えることもなく、むしろ楽しげに「よう」と言って
向かいに腰を下ろす。対する銀時は冷や汗たらり。
「いや、えっとこれはその……」
「テメーまさかこの俺が浮気してるとでも思ってやがんのか?」
「違う違う!それはナイって分かってる!」
「どうだかな……」
ぷしゅっとプルトップを開けビールを流し込む土方の表情は相変わらずニヤニヤと締まりがない。
飄々として掴み所がなく、素っ気ないとすら感じることもある恋人が、自分へこんなにも強い
関心を寄せていた。それが嬉しくて仕方ないのだ。だからついつい、
「恋人に信用されねェってのは辛いな……」
心にもないことを言って更に関心を引くような真似をしてしまう。
「違うって言ってるだろ。……勝手に触って悪かったよ」
「パスワード、教えてやろうか?」
「なっ何言ってんだよ」
「4628だ」
「おっお前バカか?パスワード他人に教えてどーすんだよ……」
「テメーは他人じゃねェだろ?いいから入力しろよ。4628だぞ」
「そこまで言うなら入れてやるけど……見た後で文句言うなよ?」
「分かってる」
銀時は言われるままに数字ボタンを押した。もしや嘘の番号を入力させてからかう作戦かとも
疑ったが、言われた番号は確かに合っていて、銀時の前にこれまでとは違う画面が表れる。
だがしかし、
「へっ?」
「ふっ……」
予想外の文字列に目を丸くする銀時と、その予想通りの反応に吹き出した土方。
やはりからかわれていたのだと銀時は憤慨する。
「騙したなテメー!」
「騙してねーよ。パスワードは合ってただろ?」
「何だよ指紋認証って!」
銀時は携帯電話を土方へ投げ付けた。
「結局お前じゃなきゃダメじゃねーか!バカにしやがって!」
「ハハッ……ん?メールが来てるな……」
ピッと指先を携帯電話に当て、土方は入浴中に届いていたメールを確認する。
「チッ……総悟からか」
「急ぎの仕事?」
「ンなわけねーだろ。……見るか?」
「えっ……うわぁ……」
土方に差し出されて見ると、何十回もの「死ね土方」で埋め尽くされた画面。
現在表示されているだけで終わりではないようだ。何処まで続いているのかと銀時が
携帯電話に手を掛けたものの、土方はそれを確と握って離そうとしない。
「続きあんだろ?見せろよ」
「延々とこれが続くだけだ。……ほら」
銀時に画面を向けたままボタンを操作して土方はメールの続きを見せた。
その態度は銀時の中で小さな疑惑を生んでいく。
「……つーか貸せよ」
「いやっ……」
「あっ!」
奪われる危機を感じた土方は画面を閉じてしまった。
こうなるとまたパスワードと指紋認証がなければ中のデータは見られない。
「その焦りよう……テメーまさか本当に見られて困るもんがあんのかァァァァァ!」
「違う!見せられねェのは事実だが、断じてお前が思うようなものでは……」
「じゃあ見せられるだろーが!」
「民間人にゃ見せらんねェものもあるんだよ!」
「民間人んん?」
銀時が目を細めて眉間に皺を寄せたところ、土方は姿勢を正して説明を始めた。
「一応、ちょっと見ただけでは分からないようにはしているが、警察幹部だけが知っていい
番号とか……他にも仕事関係の機密は色々あってだな……例えお前がそれを悪用しなかった
としても、見られた時点でアウトなんだよ」
「アウトって……クビ?」
「切腹」
「ゲッ……ンな物騒なモン持って来るんじゃねーよ!」
「携帯してなきゃ緊急時に使えねーだろ」
「そんなら風呂場にも持っていけよ……」
そこまで重要なものなら本当に肌身離さず持っていてほしい。
きっと防水機能も備わっているのだろうし。だが、今までそうしなかった意外な理由が
土方の口から聞かれた。
「脱衣所と風呂場はこの家で最も危険な場所だから無理だ」
「……は?」
「複数の侵入経路が確保されている上に隠しカメラの設置も多い。恐らくストーカー忍者の
仕業だろうが、そんなところに機密情報を持っていくわけにはいかねェ」
「マジでか!つーかいつの間に調べたんだ?」
「泊まる場所の安全性を確かめるのは当然のことだ」
「あー、そうね……」
何だか色々に衝撃的過ぎて、銀時は考えるのが面倒になってきた。
「もう寝ようぜ。なんか疲れた……」
「なんだ?もう我慢できなくなったのか?」
「俺の話聞いてたか?疲れたって言ったんだよ!」
「分かった分かった……今夜は寝かさないぞ、ハニー」
「誰がハニーだボケェェェェ!」
「そういう可愛いげのないところがテメーの可愛いところだよな」
「はあ?ふざけんなよテメー!」
「はいはい……」
土方は携帯電話をテーブルに置いて銀時の隣に移動する。
「おい、ここでヤる気か?」
「我慢できないんだろ?」
「……一回だけだからな」
銀時が土方の膝に乗ってキスをして、恋人達はいつも通り甘い夜を過ごすのだった。
後日、「4628」が万事屋の語呂合わせであることに気付き、ひとり恥ずかしさに身悶える
銀時の姿があったとか。
(12.10.02)
土方さんのパスワードが「4628」だったら萌えるなと思っただけです。ついでに、銀さんのパスワードは「1046」だったらいい^^
そんな、土銀的日常の一コマでした。
土方さんの携帯はチェックしても仕事関連しか出てこなそう。きっと友達いないから(笑)。他にあるとすれば、以前トッシー小説で書きましたけど
銀さんの写真とか、トッシーがDLした着メロとかかな。
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