※年齢制限はしていませんが下ネタ注意です。





「はい」
『おっす、オラ銀さん。悪ィんだけど今日来る時、トイレットペーパー買ってきてくんねぇ?
買い置きなくなっちまってよー……よろしくな』
「は?お、おいっ……」

用件だけ言って切れた朝一番の電話。携帯電話を握り締め、土方は暫くの間布団の上に座り呆然と
していた。


自分用はシングル客用はダブル


その日の夜遅く、仕事を終えた土方は買物袋とトイレットペーパーを抱え万事屋に向かっていた。
何だったんだ今朝の電話は。冗談か何かだと思ったがあれきり掛けてきやしねぇ。そもそも今日、
会う約束なんてしてねーぞ。まさかそこまで逼迫してんのか?

銀時と付き合うようになり何年も経つが、誕生日やバレンタインデーといったイベント事以外で
何かをねだられたことなど皆無。口癖のように金がないを繰り返してはいるものの、デート代は
大抵折半。万事屋を訪れる際の手土産でさえ、もう家族同然だからと受け取ってもらえなくなって
久しい。
そんな銀時からの電話。やむにやまれぬ事情があるかもしれないと土方は心して呼び鈴を押した。

「はーい……あっ、土方さん今晩は」
「よう」

出迎えた新八は自宅へ帰るところだったのだろう。風呂敷包みを襷に掛けていた。

「いるか?」
「あっはい。銀さー……」
「呼ばなくていい。上がらせてもらう」

お疲れさんと新八に言って草履を脱ぐ土方。しかしその手荷物が気になって、新八も帰宅せずに
後に続いた。

「あれっ土方くん?」
「よう」

居間では寝巻姿の銀時と神楽がテレビ視聴の真っ最中。思いがけない恋人の訪問に驚きつつも
相好を崩して近付いていく。

「その荷物は一体……あ、もしかして今日からお世話になりますってこと?前もって連絡が
ほしかったところではあるけど、土方くんならいつでも大歓迎だよ」
「お前、何言ってんだ?」
「分かってる。ジョークだよ。急にトイレットペーパーなんて持って来るからさ」
「は?」

買って来いと言ったのはそっちじゃないかと銀時を見るも、そんなに見詰められると照れるだ
などと肩を抱かれた。新八も神楽もいる前でべたべたするなと無言で離れる土方であった。

「つーか何でトイレットペーパー?ウチのは合わなかった?安物でゴメンねー」
「違ぇよ」
「お尻は常にベストコンディションでいたいよな、俺のために」
「だから違ぇって!」

着物の上から尻を撫でる手は身を捩って逃れる。年頃の子どもがいようがお構いなしで下ネタに
走る銀時。眉を顰めて土方はトイレットペーパーを床に、買物袋をテーブルの上に下ろした。

「テメーが買って来いっつーから買って来てやったんじゃねーかァァァ!」
「へっ?」

しんと静まり返る室内。ぼりぼりと頭を掻きながら銀時が口を開く。

「何の話?」
「だから、テメーがトイレットペーパー、買って来いって……」

首を傾げる銀時に、土方も段々とトーンダウンしてきた。銀時の隣に腰を下ろし、銀時の湯呑みを
呷って一息つく。事の成り行きを見届けてから帰ろうと、新八は四人分の麦茶を淹れてきた。

「あの……俺が、買って来てって言ったの?」
「ああ」
「いつ?」
「今朝」
「ええぇ?」

銀時は全く身に覚えがない様子。朝だから寝ぼけていたとでも言うのか……携帯電話を操作して
土方は着信履歴を表示させる。

「ほら、今朝ここから掛かってきてるだろ」
「本当だ……。えっ、でも何で?」
「そういえば銀ちゃん電話してたネ」
「いやあれは新八に掛けたんだよ」
「間違えて土方さんに掛けたんじゃないんですか?」
「うそっ……」

次第に全貌が明らかになってくる。分かってしまえば何のことはない単純な誤りのようだ。
新八は今朝ここへ来た時のことを土方に話して聞かせた――

*  *  *  *  *

「おはようございます」
「おうぱっつぁん、ありがとな」
「何のことですか?」
「トイレットペーパー。いくらだった?」
「トイレットペーパー?」
「買って来てくれって頼んだじゃねーか」
「えっ?いつの話ですか?」
「一時間くらい前だよ。お前ん家に電話して……もう忘れちまったのか?」
「電話なんて来てませんよ。銀さん、夢でも見てたんじゃないですか?」
「いいや、確かに電話した」
「なら姉上が出たとか」
「お前とお妙は間違えねーよ。絶対に男の声だった」
「そんなこと言われても僕は知りませんよ」
「まさかストーカーゴリラか?」
「いても電話には出ないと思いますよ」
「おっかしいなァ……」

*  *  *  *  *

「――ということがあったんで、変だなとは思っていたんですよ」
「そういうことか。俺ァてっきり……」
「てっきり?てっきり何だコラ!そりゃあウチは貧乏だけどなァ、トイレットペーパー貢がれる程
落ちぶれちゃいねーぞ!」
「すまんすまん」

見くびって悪かったと謝る一方で、電話の相手を確認しなかった銀時にも非があると土方。
それを言われると反論できない。

「だって新八ん家に掛けたと思ってたんだもん」
「固定電話と携帯電話をどう間違えるんだよ」

万事屋と志村家なら市外局番も同じだから省略して八桁で掛けられる。けれど携帯電話は十一桁。
誤りようがないではないか。

「無意識のうちに土方くんを求めて手が勝手に……」
「ぼけっとして、よく使う番号に掛けちまっただけだろ」
「いやいや、愛ゆえだよ」
「あっ!」

銀時の解釈に満更でもなさそうなところ申し訳ないが、新八は間違い電話で思い出すことがあった。

「もしかしてあの電話、土方さん宛てだったんですかね」
「は?」
「先月だったかな……夜中に銀さんが電話してきて『さっきのこと謝りたいからそっちに行って
いいか』って。何のことだか分からなかったんですけど、酔ってるのかと思って『もう怒って
ません』と話を合わせておいたんです。次の日も何も言われませんでしたし」
「その電話お前だったのかァ!?どーりで次会った時もツンツンしてると思った!」
「何の時だ?」

銀時の行動に腹を立てることなど日常茶飯事で、謝罪の有無などあまり気にしていない。

「土方くんが夜、屯所に詰めてなきゃいけなかった日だよ。ゴムぶっ!」

持ち前の反射神経で危険を察知し、銀時の口を塞いだ土方。あの日、少しでいいから会いたいと
誘われて、中には出さないという約束でホテルへ行った。なのに銀時はゴムを装着せず普段通りに
中へ出してしまい、土方はその状態で屯所に戻らなければならなかったのだ。
土方はゆらりと立ち上がり、銀時の胸倉を掴む。

「お前、他にもやらかしてねェだろーな?」
「だっ大丈夫だよ。……多分」
「キャサリンが銀ちゃんに電話で愛してるって言われたって言ってたアル」
「はあっ!?」
「聞き間違いか家賃の取り立てから逃げる作戦じゃないかって言っておいたけど、トッシーに
言いたかったアルか」
「そういえば一時期姉上も、土方さんとはまだ続いてるのかってソワソワしてましたけど……」
「テメェェェ!!」

胸倉を掴んだまま、土方は銀時をガシガシと揺さぶった。

「節操なしにフラグ立ててんじゃねーよ!!」
「おっ落ち着こうか土方くん。全てはキミに向けて言ったつもりであって俺は無実だ!」
「実際、別のヤツに向かって言ってんじゃねーか。有罪だこのクソ天パ!!」
「ごめんなさい!許して下さい!どうかこのとおり!!」

言い合う恋人達を横目に新八は、神楽と定春に今夜は志村家に来ないかと提案していた。
静かに眠るため、そして未だ誤解しているかもしれない妙に真実を告げるため、二人と一匹で
万事屋を後にする。そういえば土方の買物袋には米や味噌が入っていたような……トイレット
ペーパーもない状況だからと買って来てくれたのだろう。

「銀さん、土方さんには一生頭が上がらないかもね」
「……一生の前に捨てられなきゃいいけど」
「それは大丈夫じゃないかな」
「アイツら結構ラブラブだからな。どうせ今日も朝までしっぽりネ」
「そうだね」

二人の予想通り、土方は翌朝まで万事屋で過ごすこととなる。そしておそらくこちらも予想通り、
末永く幸せな関係が続くことだろう。

(14.06.03)


固定電話が基本の時代、よく使う電話番号は覚えていたものですが、携帯電話が主流になってから自分の番号もあやしくなってきました^^;
銀さんは固定電話のみですから作中にあるように、スナックお登勢・志村家・土方さん携帯なんかは記憶しているのではないかと。
あとは公共料金のお客さまセンター(支払い関係)とかw   ここまでお読み下さりありがとうございました。



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