後編
更に数日後。土方はある覚悟を持って非番前夜に恋人の家を訪れた。
いつも以上にぎこちない所作で呼び鈴を押せば、いつものように銀時がはにかみながら出迎える。
「い、いらっしゃい」
「お、う」
草履を脱いで土方は銀時と手を繋ぎ短い廊下を進む。
それから二人は手を繋いだままソファへ腰掛けた。
「あの……しっ仕事、お疲れ様」
「あっありがとう。……坂田は?」
「今日は、片付けの依頼が……」
「そうか……お疲れ様」
「ありがと……」
相手の顔を横目でチラチラと伺いつつ、目が合えば視線を逸らす。そのような状態で挨拶程度の
会話を続けていた二人であったが、ふと、土方の視線が俯き加減になり、会話が途切れた。
今だ!気合いを込めて土方は銀時の手を固く握り直す。
「あっあのな……」
「ん?」
「きっ今日は、坂田に、聞きたいことがあって……」
「な、何?」
普段よりもこちらを見ずに話し始めた土方――何事かと銀時にも緊張が走る。
「こういうことを聞くからって、俺がそういうことをしたいわけじゃなくて……ただ、俺達は
もう、二年以上だから……世間的には、そういうことだと思われてて……だから、その……」
正直なところ、土方の言葉は指示語ばかりでサッパリ分からなかったが、銀時は黙って聞いていた。
土方が何か聞きにくいことを聞きたくて、今その理由を一所懸命に話しているのだということは
分かるから、頑張っている土方の言を遮りたくはなかった。
「だからな……まだ暫くは、そういうことがないとは思うけれど、決めるだけ、決めておいても
いいんじゃねーかと……。そっそれで、坂田は……どっちがいい?」
「……ごめん。何のこと?」
「あ、あー……えっと、だから、その……よよよ夜の…………うっ上とか、下とか……」
「!?」
土方の言わんとすることを理解した銀時は、弾かれるように手を離し後退った。
ソファの端に辛うじて座り、両手で背凭れを掴み、目を見開いて土方を凝視する。
「ひひひひじかたお前……」
「ちちちちがう!」
「ひっ!」
誤解を解こうと土方が距離を詰め、銀時の両手に自身の手を重ねたところ、銀時は恐怖に身を
竦ませた。
「違うんだ坂田、信じてくれ!」
「だだだだって今……」
「本当に違うんだ!ちゃんと、説明するから……」
「……わ、分かった」
銀時が肩の力を抜いたのを確認してから土方は手を離し、ソファの中央で正座した。
それに合わせて銀時も正座し、一つのソファで向かい合うというやや異様な光景が出来上がる。
土方はふうと息を吐いてから話し始めた。
数日前、沖田からどちらが受ける方か聞かれたこと、正直に「まだ」と言っても信じて
もらえなかったこと、教えてくれないのなら銀時に聞くと言っていたこと……
「……偶々、山崎も近くにいて『そういうことは二人の秘密』とか言って治めてくれたが、
総悟は納得したわけじゃねェと思うし、このままだと坂田にも迷惑掛けるんじゃねェかと……
だからとりあえず『答え』だけでも決めておこうと思ったんだ。……驚かせて悪かった」
「俺の方こそ、疑ってごめん。実はさ……新八と神楽にも似たようなこと聞かれたんだ」
「えっ!……な、何て答えたんだ?」
「子どもには早い、って」
「そ、そうか……」
「俺達……似た者同士とか言われてるけど、周りのヤツらも似てるよな」
「そうだな」
やっとのことで誤解が解け、再び二人は元のように並んで座り手を繋ぐ。
「因みに土方は、どっちがいいと思う?……まだ先の話だけど」
「正直言って、どっちもできる気がしねェ……」
「だからまだ先の話だって。仮に、できるようになったら、どっちがいい?」
「……別にどっちでも。坂田に合わせる。……まだ先の話だがな」
「俺もどっちでもいいんだけど……」
「……じゃあ、交代ってことで」
「うん」
「…………」
「…………」
ここで二人の会話が途切れ、同時に横目で相手の様子を伺う。すると視線がかち合い、
二人は慌てて正面を向いた。
「……まだ先の話だけどな」
「うん。まだ先の話」
土方が確認するように言うと、銀時も同じように繰り返す。そこで二人はフッと笑った。
まだ先の、二人にとっては遠い未来にも思える話。いずれ「その日」が来ることすら今はまだ
想像できなくて……それでも、それがいつだって隣にいるのはこの人だから、だからきっと大丈夫。
(12.06.28)
前回に続いてキスもなしでした。誤解が解けたとはいえ、こんな話をした後ではキスする気になれないんだと思います。
純情な二人は恥ずかしくてヤれない設定ですが、なんだか段々「怖くてヤれない」っぽくなってきたような?まあ、怖いは怖いんですけど、
ヤることが怖いんじゃなくて、相手に嫌われることが怖いんですよ。相手がヤりたいのに我慢してたらどうしよう……とか、そんな感じの不安が
作中で表現できてたらいいな。そして、本人達も言っているようにまだまだ先の話ですが、一応これは「リバ小説」ですので、その辺のところは
覚悟の上で読んでいただけたらと思います。ただ本当に、まだまだ先の話です。当面の目標は、またキスをすることです^^
それでは、ここまでお読みくださりありがとうございました。
追記:続きを書きました。→★
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