コミックス四十四巻収録の第三百八十五訓ネタです。
機械(からくり)家政婦たまと、真選組監察山崎退の見合いが失敗(?)に終わり、
仲介人六人―万事屋の三人、近藤、土方、沖田―は、たまの作った「もんじゃ焼」を下げて、
料亭の食事をいただくことにした。
見合いのついでに
「さてと……じゃあ折角なんで、旦那と土方さんの見合いもしときますかねィ」
「「は?」」
急に降って湧いた沖田の発言に、銀時と土方は揃ってマヌケな声を上げた。
二人は数年前から恋仲にあり、そのことはこの場にいる全員が知っているものの、
だからと言って何故見合いなどしなくてはならないのか……
「ほら土方さん、旦那に何か質問しなせェ。俺と近藤さんでちゃんと採点しやすから。
……ねぇ近藤さん?」
「お、おー……そうだな!トシに相応しい男かどうか厳しく見させてもらおう!」
「何をぅ!?」
沖田に乗せられて近藤もその気になってしまう。
それにいち早く反応したのは銀時でも土方でもなく神楽であった。
「こっちこそ厳しく採点してやるネ!銀ちゃん、トッシーに質問するアル!」
「ちょっと待て神楽!お前、何言ってんだ?俺達ァたまの見合いで来たんだぞ」
「それはもう終わったから次は銀ちゃんの番ネ」
「いや、次とかねェから。もうメシ食って帰るだけだから」
「ほう……ウチのトシとは見合いができないと?」
「いやだから……おい土方、オメーも何とか言えよ」
この状況で味方になるのはただ一人……未だ事態についていけないのか黙ったままの土方を
引っ張り上げようとした銀時であったが、
「えっと……ごっご趣味、は?」
「おいぃぃぃぃっ!!」
いきなり振られて出てきたのは「見合い」を決定付けてしまうような言葉で、銀時は全力で
ツッコミを入れた。
「おや?答えられねェんで?」
「そんな男にトシは任せられんな」
「銀ちゃん、言ってやるがいいネ!」
「このままだと破談になりますよ」
「チッ……」
新八までも参加して、遂に逃げ場はなくなった。
答えりゃいいんだろ……銀時は投げやりに「甘い物食うこととジャンプを読むこと」と答えた。
「マヨネーズとマガジン好きな土方さんとは合わないかもしれませんねィ」
「そうだな……。漫画の好みはともかく、味覚が合わないとなると結婚してから苦労するな」
「じゃあマイナスっと……」
沖田は持っていたノートに何やらメモをすると、神楽が真っ先に反論する。
「何でもマヨネーズ塗れにするそっちがおかしいネ!銀ちゃんは料理上手の床上手アル!」
「へぇ……床上手なんですかィ?」
面白くなってきたと沖田は土方へ話を振る。流石に正気を取り戻していた土方は眉間に皺を
刻んで「知るか」と一喝。
「そうだぞ総悟。トシは婚前交渉などというふしだらなマネはせん!」
「近藤さん、そういうことじゃねーよ……。こんな茶番に付き合ってられねーってことだ」
「茶番?」
土方の態度に新八のメガネの奥がキラリと光る。
「銀さんと見合いするのが茶番だって言うんですか?」
「そりゃそうだろ……」
「つまり、土方さんは遊びで銀さんと付き合っていたということですね?」
「何でそうなるんだよ……」
対応に困った土方は銀時に救いを求める視線を送る。
けれど銀時は注意が逸れたのをいいことに、高級料亭の食事に舌鼓を打っていたため
全く話を聞いてなかった。
「銀さん、土方さんはそう言ってますけどどうなんですか?」
「ん?ああ……そうなんじゃね?」
適当に相槌を打ったものだからさあ大変。
「見損ないましたよ!」
「最低アル!」
「トシ、何てことを!」
「ぷっくくくく……」
土方は新八・神楽・近藤から責められ、沖田は肩を震わせて笑う。
「だから違ェって……」
「銀さんが嘘を吐いたとでも言いたいんですか!?」
「トシ、ここは素直に謝れ」
「そうだ〜、土下座して謝れ土方コノヤロー」
「オメーは黙ってろ!」
事態を悪化させることに全力を尽くすドS王子はそこそこに、土方は三人の誤解を解こうとする。
「俺の言い方が悪かった。別にコイツとは遊びのつもりなんかじゃねェ」
「でも銀さんには伝わってないみたいですよ」
「床上手なんて言うからカラダ目当てだと思われるアル」
「それ言ったのテメーだろ」
「とにかく、トシは万事屋のことを本気で愛しているんだな?」
「ああそーだよ!」
何でこんな人前で、二人きりの時でも言わないようなことを言わされなければならないのか……
元を辿ればこの見合いごっこを提案したヤツが悪い。
土方は沖田を睨み付けたものの堪えた様子はない。それどころか、
「旦那の何処が好きなんで?」
土方を更に追い詰めるようなことを平然と言い放つから始末に負えない。
「全部、なんてのはナシですぜ。できるだけ具体的に答えて下せェ」
「何でテメーが質問してんだよ!」
「銀さんも知りたいですよね?」
「へ?ああ、えっと〜……」
余計なこと言うなメガネ!コイツもドSだから総悟と組むに決まってる……
しかし、土方の予想に反した言葉が銀時から紡がれた。
「そーゆーのは二人になってから聞くからいいや」
「騙されちゃダメよ、銀ちゃん。カラダ目当てだったらどうするネ?」
「別にいいだろ……。何が目当てでも俺でいいって言ってんだからよ」
からかわれはしなかったが、こうしてまともに返されたら返されたで居た堪れない。
惚気とも取れる銀時の発言に「見合い」の場は静まり返った。
「銀さん……」
「銀ちゃん、そんなにトッシーが好きアルか?」
「好きじゃなきゃ、こんなヤニ臭ぇマヨネーズバカと付き合うわけねーだろ」
恥ずかしいこと言わせるなと舌打って、銀時は人差し指で頬を掻く。
その時、近藤がバッと身を乗り出して銀時の手を取った。
「ありがとう!トシを、トシをそこまで……良かったなぁトシ!」
「あ、ああ……」
「ここまで想われたらカラダ目当てなんて言えないよな、トシ!」
「つーか、最初からカラダ目当てじゃねーし……」
「うんうん……誤解されてただけで、本当はお前も万事屋を心から愛していたんだよな!」
「お、おう……」
涙を滲ませて感動している近藤に頷きながらも土方は、恥ずかしさのあまりこの場から
逃げ出したくて仕方がなかった。
「万事屋、トシを末永くよろしく頼む!」
「お、おう……」
「そっちこそ銀ちゃんに永遠の愛を誓うネ!」
「ち、誓います……」
神楽の迫力に圧されて土方が誓えば、そこは一気に祝賀ムードに包まれる。
「よく言った、トシ!」
「お、おう……」
「良かったですね、銀さん!」
「お、おう……」
「それでは誓いのキスを……」
「「しねーよ!!」」
沖田に二人そろってツッコミを入れると、残りの三人がハモっただの息ピッタリだのとはしゃぐ。
「ヒューヒュー!」
「近藤さん、もう勘弁してくれ……」
「銀ちゃん、お幸せに!」
「……もう食い終わったし、帰っていい?」
「何言ってるネ。これからトッシーとデートでしょ」
「そうだな。二人で庭園散策でもするといい」
「いいですね。ほら、銀さん!」
「行きゃあいいんだろ……」
座卓に手を付いて立った銀時に続く形で土方も立ち上がる。
「そのままホテルにでもしけこんだらどうです?」
「るせェ」
頬を染めた二人は祝福と冷やかしを受けながら部屋を後にした。
こうして無事に二人の縁談がまとまり、当初の目的をすっかり忘れた四人は晴れ晴れとした
表情で家路に就いた。
(12.04.05)
本誌を読んだ時に、山たまそっちのけで「銀と土が見合いだヒャッホ〜!」となりました。六人は「後は若い二人で」と一旦料亭を出たかに見えますが、
銀さん達が料亭の食事にほとんど手を付けないまま帰るわけありません。山崎がたまさん追って行った後で戻って来るんだきっと。
そして、戻ってからは銀と土の見合いになるんだきっと……というわけでこんな感じになりました。
折角お見合いだったのに二人があまり話せなかったので「おまけ」を付けました。庭園散策中の二人の会話です。どうぞ→★