後編


鉄之助が銀時に教えを請うたその日。便箋も何も持っていないという鉄之助は、まず手紙を書く
道具を揃えることから始めた。ここでの銀時の役割は鉄之助を店に案内することだけで、
実際の道具選びは店主に任せた。
その後、屯所に戻り本格的に指導を始めたのだが、初日は筆の使い方を教えただけで終わった。

二日目。実際に手紙を書かせてみたのだが、考え過ぎてなかなか書く内容がまとまらず、
白い紙に向かってうんうん唸る鉄之助に「とりあえず『拝啓』だけでも書け」とか「失敗したら
書き直せばいいから」とか助言をして終わった。

そして三日目の朝。

「できました!自分、やっと書けたっス!」
「んあ?」

主のいない副長室に泊まっていた銀時は、妙にハイテンションな鉄之助の声で起こされた。
どうやら銀時が寝た後も、一人で手紙を書き続けていたらしい。

「朝っぱらからうるせーな……」
「自分、手紙書けたっス!アナタのおかげっス!」
「はいはい良かったね……。じゃあ俺、もうちょい寝たら帰るから。」

布団を被り二度寝の体勢に入ろうとした銀時に鉄之助が「まだ仕事が残ってるっス」と起こす。

「仕事ぉ?」
「これから手紙を届けに行くっス!」
「行けばいいだろ……」
「急いで届けないといけないんです。助けて下さい!」
「ったくよー……」


銀時は渋々起きて、鉄之助をスクーターの後部座席に乗せて走らせた。



*  *  *  *  *



鉄之助が土方の兄に宛てた手紙を書き、墓前で兄弟の絆を確認し、届けなかった手紙を銀時が
病室に飛ばし……二人が屯所へ戻ると土方の退院が明日に決まったと聞かされた。

「良かったっス!副長が元気になられて、本当に良かったっス!」
「そうだな!」
「ったく、一年くらい入院してりゃあいいのによ……」

素直に喜びを分かち合う近藤と鉄之助の横を悪態吐いて通り過ぎ、銀時は中へ。

「旦那ァ……見舞いに行かなくていいんで?」
「昼寝。朝早く起こされたせいで眠ィから。」
「あのっ、色々ありがとうございました!」
「はいはい……」

頭を下げた鉄之助に背を向けたままひらりと手を振り、銀時はここ数日寝床にしていた副長室へ
向かっていった。



その日の夕刻。

「またこんな時間に来やがって……」
「今日は面会時間内だろ?」
「ギリギリ、な。」

日が沈みかけてからの来訪に土方が嫌味を言うと、銀時は事も無げに「昼寝してたから」と返す。

「昼寝かよ……。相変わらずダラけてやがんな。」
「今日は早朝から仕事だったんだぜ?昼寝くらいしたっていいだろーよ。」
「紙飛行機を飛ばす仕事か?」

土方は昼間、病室に飛んできた紙飛行機を銀時に向けて飛ばした。銀時はそれをキャッチし、
大事そうに両手へ乗せる。

「これはサービス。……バラガキくんは知らねェよ。」
「……宛先、間違ってるぞ。」
「二度も行くの面倒だからさァ、何かのついでにお前が届けてよ。」
「行ったのか……」
「そういう依頼だったからね。……でも、相手の弟さんの書いた感動的な手紙を見て、出すのを
やめたみたい。そんでそれを俺が……」
「チッ……」

舌打つ土方の頬は朱に染まり、照れているのだと判る。

「まあ、俺としては出してくれなくて良かったけどな。」
「素直じゃねェな……。お兄ちゃんに言ってほしかったんじゃねーの?」
「こんなこと伝えてほしかねェよ。お前、ガキに変なこと言うなよな。テメーは冗談のつもりでも
ガキは真に受けるんだからよ……。」
「何のこと?」
「それ、読んでみろよ。」
「いいの?」
「ああ。」

銀時は持っていた紙飛行機を丁寧に開いていく。

「えっと……『はじめまして。自分は貴殿の弟様の小姓をしている佐々木鉄之助と申します。』
うんうん……なかなかよく書けてんじゃねーの。たった数日でここまで書けるとは、余程優秀な
先生に習ったと見える。」
「ほざけ。問題は本文の方だ。」
「ん〜……『弟様は江戸で立派に働いています。弟様は自分の目標であり理想の姿です。』
……いいじゃん。こんなん聞いたら兄ちゃんは感動して泣いちゃうね。」
「いいから続きを読め。」
「はいはい……『弟様は江戸で生涯の伴侶に巡り会い、先日めでたく結婚の儀を執り行いました。』
……あれっ?」

何やら雲行きが怪しくなってきたと銀時は口元を引き攣らせつつ、続きに目を通す。

「…………」
「おい、朗読は終わりか?」
「いや……何これ?俺とお前がヤりまくってるみたいに書かれてねェ?」
「そこまで露骨には書いてねェけどな……」

手紙には、土方と「伴侶」はとても仲がよく、忙しい土方のために「伴侶」が屯所へ足繁く
通って身体を重ねているというようなことが書かれていた。

「しかも、お前の病院に泊まり込んでまでヤってるって……」
「テメーが鉄に言ったんだろ。」
「言ってねーよ!むしろ勘違いしてたのを正したからね!」
「……正せてねェじゃねーか。」
「うっ……」
「アイツはそういう年頃なんだから発言には気を付けろよ。」
「お前の小姓なんだからお前が何とかしろよ。」

土方の口調は終始穏やかで怒っている様子はない。この手紙を兄に伝えたのなら激怒したかも
しれないが、そうはならなかったため、むしろこの状況を楽しんでいるようにさえ思える。
だから銀時も安心して嫌味を返せるのだ。

「ところで明日、退院だって?」
「ああ。」
「どうする?病院プレイするなら今日しかないぜ?」
「ハッ……それじゃあガキと同じじゃねーか。」
「いつまでも少年の心を忘れてないからね。」
「あと一晩くらい我慢しやがれ、クソガキ。」
「それは、明日になったら目一杯サービスするわ(はぁと)って解釈していい?」
「好きにしろ。」
「じゃあ、好きにする。」

包帯の巻かれた土方の米神に、銀時は軽く唇を押し宛てた。


*  *  *  *  *


翌朝。銀時と共に病院を出た土方を鉄之助が出迎えた。

「副長、お勤めご苦労さまでした!お車はこちらに……」
「ムショ帰りか俺ァ……」

鉄之助の頭をこつんと小突き、運転席に山崎の乗ったパトカーの後部座席に乗り込む。
銀時はその隣に、鉄之助は助手席に乗って四人は屯所へ向かった。



「トシぃ〜!迎えに行けなくてゴメンな〜!!」
「近藤さん、迷惑掛けたな。」

屯所に着くなり満面の笑みを浮かべた近藤に抱き付かれ、土方は苦笑しながら自室へ向かう。
入院はほんの数日であったが、土方は久方ぶりに我が家へ帰って来たような懐かしさを感じていた。

「何でィ……ピンピンしてるじゃねーか。医者が匙を投げて帰されたって聞いたのに……」
「その話作ったの、オメーだろ。」

沖田の毒舌も今日はなんだか可愛らしく思えて、土方はふっと口元を緩ませる。
その様子に沖田は「頭の中身も怪我したようですねィ」とこれまた嫌みたっぷりに返す。
いつもの真選組が漸く戻って来たのだった。


土方はすぐにでも仕事を始めようとした。けれど……

「トシ、今日くらいはゆっくり休め。」
「そうはいかねェ。今までずっと休んでたんだ。」
「ダメだ!トシは今日まで休み。……万事屋、依頼だ。トシを休ませてくれ。」
「はいよ〜。」
「チッ……」

近藤から強引に休みを与えられ、渋々制服に着替えるのを止めた。

「副長、自分は何をしたらいいっスか?」
「じゃあ、そこの書類を締め切り順に並べておいてくれ。」

土方の机の上には幾つもの書類の束。急ぎのものは近藤達幹部が手分けをして片付けていたが、
それ以外のものはいつも通り土方の所へ来ていた。

「終わったら資料室の整理な。……やり方は山崎に教えてもらえ。」
「分かりましたっ!」

鉄之助は嬉しそうに土方の机の書類に目を通し始めた。その姿は幾分頼もしげに見えた。

「それじゃあ、頼んだぞ。」
「はいっ!副長はゆっくりお休みください!」
「おう。」

じゃあ行って来ると言い残し、土方は銀時と外へ出て行った。



爽やかな秋の風吹く江戸の町。咥え煙草で歩く土方の後ろを銀時は付いていく。

「……どこ行くの〜?」
「あ?『明日』になったらサービスしろっつったのはテメーじゃねェか。」

振り返った土方の、その挑むような眼に銀時は思わず生唾を飲み込んだ。

「退院したてなのに元気だねェ。」
「元気になったから退院したんじゃねーか。」
「それもそうか。」

土方の腕に自分の腕を絡ませて、銀時は足取り軽く行き付けのホテルへ向かっていった。


*  *  *  *  *


「そういえば俺、かなり長いことウチに帰ってないんだけど……」
「は?病院にいない間は帰ってたんじゃねェのか?」
「いや……成り行きでお前の部屋に泊まってた。」
「どんな成り行きだよ……」
「まあ、色々と……。あ〜、新八と神楽、怒ってっかなァ……」
「……今日は帰るか?」
「まあ、ここまできたらあと一日延びても同じでしょ。明日、手土産でも持って帰るわ。」
「そうか……」
「ってことで、今度こそ『初夜』の儀を……」
「まだ昼前だけどな。」


こうして「結婚」後、初めて結ばれた二人は、夜になると一旦ホテルを出て酒を酌み交わした。
翌朝、銀時は酔いの残る体で真選組まんじゅうを手土産に自宅へ帰ることとなる。
そこで、己の存在を根底から覆す苦難に遭遇するのだが、今はただ、永遠の愛を誓った
相手との幸せなひと時に浸っていた。


HAPPY WEDDING GINTOKI&TOUSHIROU!


(11.10.16)


……めでたしめでたし、なのかな?結婚話のわりに二人をいちゃつかせられなかったのが反省点です。……致命的な反省点だと思います^^;

この後、土方さんは今まで通りバリバリ仕事をして、連休取れたら銀さんと新婚旅行するんじゃないかと*^^* 二人の新婚旅行は熱海辺りで

しっぽり希望です。何かの機会があれば書きたいですが、二人が温泉行ってラブラブする話は前に書いたことがあるので、「新婚旅行」っぽい何かを

思い付けば……。捏造&歪んだ解釈満載の本誌ネタでしたが、楽しんでいただけましたら幸いです。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 

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