※タイトルに「三百七十一訓」と入っていますが、実際の三百七十一訓とは全く別物です。
※第三百七十と三百七十二訓の間を勝手に妄想・捏造した話です。
※大丈夫な方はスクロールしてお進みください。



































妄想的裏三百七十一訓


「あの〜、そろそろコレ、外していただけません?」

ここは真選組の取調室。パイプ椅子に座らされた銀時は、小さな机を挟んで向かいに座る近藤へ
手錠を外すよう控え目に訴えた。

「お前がシロだと確定したら外してやる。」
「いや……分かってんだろ?長い付き合いじゃねーか。」
「だからこそ慎重に調べる必要がある。まさか、真選組の情報を得るためにトシに近付いたのでは
あるまいな?」
「あ?」

いつになく鋭い目つきの近藤を銀時は睨み返す。

「なに?お宅の副長さんは、男に誑かされて仕事上の機密をホイホイ喋っちゃうよーなヤツだっての?」
「そうは言っていない。だが……お前の昔の仲間達は、それを利用しようとするのではないか?」
「かもね。」
「だったら……」
「だったら?土方と別れろって?」
「そ、そういう、わけでは……」

恐らく近藤自身も態度を決めかねているのだろう。銀時は大きく息を吐き「あのさァ」と語りかける。

「土方と俺の関係を知って、他のヤツがどう動くかなんて分かんねェよ。お前の言うようにそれを
利用して真選組を潰そうって輩がいるかもしんねェけど、逆に、もう俺に攘夷の意志はないんだと
判断して、諦めるヤツもいるかもしんねェだろ。」
「そっそうか!お前は過去を捨て、トシと共に歩む道を選んでくれたんだな?」
「だからァ……」

ややイラついた様子で銀時は続ける。

「俺は真選組副長と付き合ってるわけじゃねェし、アイツも白夜叉と付き合ってるわけじゃねェの。
……分かる?」
「えっと……」
「過去がどうとか仕事がどうとかは関係なくて、一人の人間として惹かれるものがあるから
一緒にいるんじゃねェか……」
「万事屋……」
「テメーだって惚れた女がいるんだ。それくらい分かるだろ?」
「確かに、俺だってお妙さんの過去がどうであれ愛し続ける自信がある!そうか……お前は
それほどまでにトシのことを!」
「いや、ね……」

自分で言ったこととはいえ、改めて確認されると恥ずかしい。銀時は頬を染めて口籠る。
けれど二人の絆を確信した近藤は、手錠の鍵を取りに行くと言って上機嫌で部屋の扉を開けた。

「お前ら……」

そこには沖田や山崎ら、銀時と面識のある隊士達が集まっていた。
扉が開いたことに気付き、鉄之助が前へ進み出て頭を下げる。

「局長お願いです!その人を釈放してあげて下さい!」
「鉄……」
「その人は過去を悔い改め、まっとうな道を歩み始めたんです!どうか、どうか……」
「分かってる。」

鉄之助の頭にポンと手を置き、近藤は笑みを浮かべた。

「大事なのは今だ。万事屋も、お前もな。」
「ありがとうございます!……よかったですね。」
「いや、俺は元々無実だし……」

部屋の奥にいる銀時は鉄之助の言葉掛けをさらりと否定して「それよりコレ」と両手を上げて
手錠を示す。

「おお、そうだったな。えっと鍵は……」
「土方さんと一緒に病院じゃねェですか?」
「あっ!」

沖田の言葉に近藤は「しまった」という顔をする。

「万事屋すまん。暫く待っていてくれ。」
「どーゆーことだオイ。」
「それ、トシがかけただろ?鍵もトシが持ってるんだ。」
「は?合い鍵とかねェのかよ?」
「何ならコレでその手錠、ぶっ壊してやりましょうか?」

どこからともなく沖田はバズーカを取り出し、砲口を銀時へ向ける。

「おいおい沖田くん……そんなことしたら手錠どころか俺の手もぶっ壊れちまうじゃねーか。」
「そしたら愛しの土方さんと一緒に入院できやすぜ。良かったですねィ。」

ニヤニヤと笑いながらバズーカを構える沖田に、やはり近藤との話を聞かれていたかと銀時は
舌打つ。しかし銀時が言い訳をする前に鉄之助が口を開いた。

「沖田隊長、『愛しの』ってどういうことですか?」
「何でィ……お前も取調べ中の話、聞いてただろ?」
「いえ。自分は皆さんの後ろにいましたから何も……」
「なら教えてやるぜ。そこにいる旦那と土方さんは将来を誓い合った仲なんだ。」
「そうなんですか!?」

沖田の言葉に驚きを露わにする鉄之助。

「し、将来って……副長もこの人も、男じゃないですか!」
「いや、そんな大袈裟なもんじゃなくてさァ……」
「鉄、チェリーのお前だって、男同士のそういう世界があることくらい知ってんだろ?」

銀時の言葉を遮って沖田が鉄之助に「説明」する。

「そうだったのか……。だから副長はあの時、あんなに怒って……」

鉄之助は煙草の代わりにアダルト雑誌を買おうとして、自販機に減り込まされた日のことを
思い出していた。

「あそこの本では副長を元気にすることができないんだ。」
「何のことでィ?」
「喫煙所の自販機です。あそこには副長の趣味に合う本がありません。」
「おお、そうだな。それなら小姓のお前が買っといてやるといい。」
「はいっ。……で、何処に売ってるんでしょう?」
「ちょうどいいところに旦那がいるじゃねーか。」
「そうでした!」

沖田に促されて鉄之助は銀時の前へ。

「旦那さん、教えて下さい。」
「その呼び方やめてくんない?旦那ってそういう意味じゃないからね?」
「で、では……奥さん?」
「ちっげーよ!俺とアイツはそういう関係じゃねェんだよ!それより早く手錠外してくれや。」

拘束された手で銀時は机をバンバンと叩く。

「そういう関係じゃないって……まさかアナタ、副長とは遊びのつもりなんですか!?」
「何ィ!?先程俺の前で誓った愛は嘘だったのか!?」

鉄之助の隣に近藤も加わり銀時に詰め寄る。その様子を沖田は声を殺して笑いながら見ていた。

「まだいたのかゴリラ。手錠の鍵はどうした?」
「トシへの愛が嘘だと言うなら、ここを出すわけにはいかん!」
「い、いや、嘘じゃねェって……」
「本当ですか?本当に副長を一生愛すると誓えますか?」
「そんな先のことはさァ……」
「やはりいい加減な気持ちでトシと付き合っていたんだな?許せん!」
「違うって……。とにかくコレ外せ。話はそれからだっていいだろ?」

まずは鬱陶しい拘束を解いてほしいと、銀時はこれまで再三主張してきたことを繰り返す。
けれど近藤は首を横に振った。

「ダメだ。トシへの永遠の愛を誓うまで、ここを出すわけにはいかん。」
「おいぃぃぃ!何だよそれ!主旨変わってんじゃねーか!俺がテメーらの敵かどうかって話だろ?」
「トシの心を弄ぶヤツは俺達の敵だ!」
「近藤さん、心も身体も弄ばれてますぜ、きっと。」

沖田は喜々として会話に加わった。

「いやいやいやいや……沖田くん?火に油を注ぐような真似はやめて!」
「俺はただ、可能性の話をしただけでさァ。旦那が土方さんを愛してないっていうなら、
そういうこともあるかと思いまして。」
「どうなんだ万事屋!トシのことは遊びなのか?それとも本気なのか?」
「ほ、本気に決まってんだろ……」

何だこの羞恥プレイは……。不当逮捕で取調べを受け、無罪放免で釈放されるのではなかったのか?
なのに何故、土方への思いを、本人にすらあまり伝えたことのない思いを、こんな衆人環視の中で
吐露するはめになっているんだ……。

「本当にトシのことを愛しているんだな?」
「お、おう。」
「ならば今ここで、トシへの愛を誓ってもらおう。俺達が証人になる。」
「分かったよ。永遠の愛を誓います。……これでいいだろ?」

一刻も早くこの場を終わらせるため、銀時は仕方なく誓いの言葉を口にした。
けれどサディスティック星の王子はまだ、このネタで遊ぶつもりらしい。

「言葉だけでは何とでも言えますよねィ?」

沖田が面白がって口を挟んでいるのは明白で、銀時はギロリと睨み付けた。しかし沖田は
一層、笑みを濃くするのみで、堪えた様子はない。

「近藤さんだって、口だけじゃ不安ですよねィ?」
「そうだな……よしっ、今の言葉が真実であるというのなら、これにサインしてもらおうか!」
「はあぁぁぁぁ!?」

近藤が懐から取り出し、銀時の前に広げたのは婚姻届の用紙。

「おまっ、何でンなもん持ってんの!?」
「お妙さんがその気になった時、すぐ書けるようにと思ってな。……なぁに気にするな。
俺とお妙さんの分はまた取りに行けばいい。」
「あの……俺達、男同士だし、書いても受理されないし……」
「俺達が証人になってやる!法律で認められずとも、お前達は立派な夫婦だ!……あっ、夫夫か?」
「言い方なんてどうでもいいけど、こういうもんは俺一人で決められるものじゃ……」
「安心しろ。トシは軽い気持ちで誰かと交際するような男じゃない!」
「そうでさァ……ってことで旦那、さあどうぞ。」

沖田はにっこりと笑って銀時に筆を差し出す。銀時と近藤が話している隙に沖田は「妻」の欄に
土方の情報を記入していた。何処から持って来たのか捺印も済んでいる。

「いや、あのさァ……」
「ん?トシは『妻』じゃないな。すまんすまん。」

近藤は届出用紙の「妻」の文字を二重線で消して「夫」と書き換える。

「あの、そういう問題ではなくて……」
「トシと添い遂げる気はないのか?」
「えっと……とりあえずコレを外してくれよ。でないとまともな字が書けねェ。」
「おお、そうだな。では俺が代筆してやろう!」
「はい?」

手錠を外してもらって逃げる算段を付けていた銀時は当てが外れてしまった。
そうとは知らぬ近藤は銀時の向かいに座り筆を取る。

「坂田銀時っと……。生年月日は?」
「いや、あの……」
「××年の十月十日だって土方さんが言ってやした。」
「おお、そうか。住所はかぶき町の……」
「ちょっ……」

記入を阻止するため動こうとすれば沖田と鉄之助に押さえ付けられ、遂に銀時と土方の婚姻届は
完成した。

「いや〜、めでたいなァ。おめでとう万事屋!」
「おいこらテメー、勝手に捺印までしやがって……公文書偽造じゃねーか!」
「まあまあ旦那、別に役所へ出すわけじゃないんだからいいでしょう?」
「よくねーよ!ていうかその『坂田』って印鑑、何処から持って来た!」
「ウチの隊士に坂田ってヤツがいたんでソイツのを借りたんだ。」
「よくある名前でよかったですねィ。」
「くっそ〜……」
「それじゃあ鉄、コイツをコピーして土方さんに届けてやれィ。」
「分かりました!」
「おいぃぃぃぃっ……!」

銀時が止めるのも聞かず、鉄之助は婚姻届を手に取調室を出て行った。



「本当さァ……何なの?いきなりあんなモン見せられたら、土方だって驚くだろ……」
「そうだな。あまりに嬉しくてビックリするかもしれんな。」
「嬉しくて早く退院できるかもしれませんねィ。」

手錠のまま取調室から出された銀時は、二人の「結婚」を喜んでいる近藤と楽しんでいる沖田に
連れられて応接室へ来ていた。

「どうした?元気がないぞ?」
「土方さんの具合が心配なんでしょう?目の前でぶっ倒れましたからねィ。」
「そーですね。」

何を言ってもからかい続けるのだろうと、銀時は沖田の言葉を適当に流すことにした。

「安心していいぞ。病院から連絡があって、トシはあの後すぐに意識を取り戻したらしい。」
「そーですか。」

土方の容体が心配いらないことくらい、近藤の様子を見ていれば容易に予想ができた。
もしも生死の境を彷徨うような状況なら、銀時を取調べている場合ではないだろう。

「もうじき、鉄が鍵を持って帰ってくるから待っててくれ。……そうだ、饅頭があったな。食うか? 」
「食う。」

近藤が手の空いている隊士に頼み、お茶と饅頭が銀時の前に並べられた。

「なに、この真選組まんじゅうって……」
「市民に親しみを持ってもらおうと作ったんだ。Tシャツと手拭いもあるぞ。よかったら土産に
持っていくか?」
「何の土産だよ……不当逮捕記念?」
「ハッハッハ……なかなか出来ない体験だろ!」

嫌味を言ったつもりが近藤には通じず、銀時は苦々しい顔付きで饅頭を口に放り込んだ。
短い鎖に繋がれた両手は饅頭を口に運ぶくらいはできるもののやはり不自由で、銀時は両手で
湯呑みを包み込みながら鍵の持ち主へ思いを馳せた。


(11.10.13)


本誌バラガキ編は萌え所満載だったのですが、いかんせんシリアスパートなので二次創作する気にはなれませんでした(シリアス書くの苦手なので)。

けれどバラガキ編終了直後の371訓で銀&土が登場せず、372訓で銀さんが真選組まんじゅうを土産に帰宅したシーンを見て「二人はずっと一緒だったんだ!」と

一気に萌え滾りました^^ その勢いで「新婚旅行話を書こう!」と意気込んで書き始めた瞬間、土方さんが入院中であることを思い出しました^^;

というわけで旅行には行けませんがお付き合いいただけましたら幸いです。続きはこちら。