土方を好きになったと気付いた時も、それほど驚きはなかった。
警察はあまり好きじゃないが、土方個人は別に悪いヤツじゃねェと思っていたし、
俺って男もイケたんだなとかそんくらいだった。

そんで、土方より前にちゃんと惚れたヤツっていなかったかもとか、男もイケたっつーより
男専門かもとか、AVでヌけるんだから男専門じゃないかもとか、でも今はAV見る気にならない
から土方でヌこうかとか、何にせよ土方が好きなんだからお付き合いしたいなとか思って
告白したらOKだった。
そん時も驚くって感じじゃなかったな。すげぇ嬉しかったけど。

最初のデートは映画で―フツーにそん時話題になってたアクションもので―その後メシ食って
七時前には帰った。キスもない超健全なデートだったが、アイツは真面目だからそんなもんかと
ここでも驚きはしなかった。

きっと三ヶ月くらいは手を出さないんだろうと、俺も暫くはお子様デート(酒は飲んだけど)を
それなりに楽しんでいた。
だけど次第に我慢ができなくなって……恋人いんのにオ〇ニーばっかなんて空しくなるだろ?
だからホテルに誘ってみたんだ。


初めての初体験


「なあ土方、明日って仕事?」
「いや……」
「じゃあ泊まってかねぇ?」
「泊まるって……何処に?」
「ラブホに決まってるじゃねーか」
「ラブホ!?」
「なに赤くなってんだよ。ほら、行こうぜ」
「い、いいのか……?」
「……嫌なのか?」

態々確認するってことは気分じゃねぇのかもしれないと一応聞いてみたら全力で否定された。
そんでもって、

「俺は本気でお前のことを愛してる!」
「は?おまっ、急に恥ずかしいこと言うんじゃねぇよ!」

いくら個室の飲み屋だからって防音じゃねぇんだぞ!?なにコイツ……ああ、「嫌なのか」って
のを「俺が嫌いなのか」って意味にとったんだな?ったく、世話の焼ける……

「違ぇよ……今日はヤる気分じゃねぇのかって聞いたんだ。疲れてる?服着てると分かんねー
けど実はケガとかしてる?」
「いや、そんなことは……。ただ、お前は本当に俺でいいのか?」
「あ?今更?いいから付き合ってんだろ」
「そ、そうか……」
「つーかお前は、銀さんじゃ不満かコラ」
「そんなわけない!俺はお前を愛……」
「あー、分かった分かった。じゃあ今日は俺達の初エッチ記念日な。乾杯〜……」
「か、乾杯……」

意外と恋人同士に夢見てるらしい土方に合わせて「記念日」とか言って乾杯。
また赤くなっちゃって……こういうところを可愛いとか思っちゃう俺も大概だな。
まっ、最初のうちはこんなむず痒い関係も悪くないだろう。

というわけで、俺達は飲み屋を出て記念すべき初エッチを行う場へと足を運んだ。

初エッチ記念日―俺達が初めてエッチする日―だと思ってたんだけどなぁ……



*  *  *  *  *



「土方……おい、土方っ!」
「あ……な、何だ?」
「何だじゃねーよ……どの部屋にするかって聞いてんの」
「あ、ああ……どこでも……」

土方は元々口数が少ない方だけど、飲み屋を出て以降はほぼ無言状態になった。
ホテルに着いてからはこっちの声も入らなくなったみたいで、俺が何度も呼び掛けてやっと
返事をする始末。しかもどこがいいって聞いてんのに「どこでも」って……緊張してんのか?
へへっ、どこでもいいならドぎついSMルームでも選んでやろうか……

と思ったけど初回からそれは可哀相だし、至ってフツーの部屋を選んでやった。

受付のおばちゃんから鍵を受け取り、立ち尽くしたままの土方の手首を掴んでエレベーターに乗る。
狭い空間で二人っきり……離すタイミングを逃して手は繋いだ―というか掴んだ―まま。
その上、相方は黙ってるもんだから何だか落ち着かない。

利用階に着くほんの数十秒の間に俺もちょっぴりドキドキしてくる。
初めてに相応しい雰囲気になっちまったな……

*  *  *  *  *

「ベッドが丸くねぇ……」
「……は?」

部屋に入ってボソリと呟いた土方に思わず聞き返す。すると土方は至って真顔で、こういう所の
ベッドは全部丸いと思ってたとぬかしやがった。

「お前が行ったラブホは皆丸かったのか?」
「いや、初めて来たんだが……何つーか、丸いイメージがあってよ……」
「初めて!?お前、ラブホ来たことねぇの?」
「ああ」

まさか土方って……

「素人童貞?」
「何だそれ?ただの童貞と違うのか?」
「だからほれ、プロとしかヤったことねーのかってこと」
「プロ?……遊郭とかそういうことか?」
「そーそー」

冗談言ってからかうつもりが用語解説になっちまったよ……コイツ、モテそうだけど頭堅いし、
意外と経験少ないのかもな。

「そういう所には行ったことねェよ」
「何で?興味ねェの?」
「興味っつーか……そういう女と知り合う機会もねェし……」
「知り合う?店に通ってお近づきになるもんだろ?」
「……見合いみたいなもんなのか?」
「見合い?まあ、そう言えなくもないよーな……」

何だこの微妙に噛み合わない感じ……

この時の俺は、ある可能性を見出だしながらも、それがあまりに有り得ないことに思えて、
無意識にその可能性を打ち消していた。

「フーゾクでなくてラブホもないってことは相手の家とか?まさかとは思うけど常に外とか?」
「いや……」
「だよな〜……流石にそんなアグレッシブなヤツはいねェよな。あとは、えーっとー……
連れ込み宿だ!お前、若いのに結構古風なとこあるからさ、昔ながらの連れ込み宿だろ?」
「あのな……」
「これも違うのか〜!」

とにかく最後まで希望は捨てずにいこうと、土方の言葉を遮ってヤる場所を考えた。

屯所、ダチの家、カラオケボックス、映画館、公衆便所、サウナ……途中から自棄っぱちで
公共の場を挙げていった。けれど土方はどれも否定して遂に、

「誰ともヤったことねェよ」
「…………」

とんでもないことをごく平然と言い放った。

絶句……この時の俺にこれ以上ピッタリな言葉はない。
少し前までベラベラ喋っていたのが嘘のように言葉を失い、アホみたいに口を開け、
同じソファーの隣に座る男の顔をひたすら見続けていた。

「おい、どうした?」
「…………」
「おーい……」

目の前で手をひらひらされて、俺の意識は少しずつ現実に引き戻されていく。

「……ヤったこと、ない?」
「ああ」
「セックス……マジで、ヤったこと、ないの?」
「ああ」
「一度も?」
「一度も」

震える指で土方を指して最終確認。

「……童貞?」
「ああ」
「…………」
「おいっ……」

そこで完全に現実へ戻ってきた。

「マジでかァァァァァ!?」
「……そんなに驚くことか?」
「おまっ……マジで!?マジで未経験!?」
「ああ」
「それなのに、なに堂々としてんの!?」
「あ?堂々としちゃいけないってのか?」
「べっ別にいいんだけど、でもさぁ……えぇっ!?」
「訳分かんねェ……結婚したことねェんだから経験なくて当然だろ」
「結婚んんんんんん!?」

何かまたとんでもねー単語が出てきたなァおい。

「つーか、お前はヤったことあるのか?」
「ああ」
「そうか……。色々大変だったんだな……」
「あっあのさ、その……土方は、えっと……結婚してから、セックスするもんだと思ってる?」
「そりゃそうだろ」

えぇぇぇぇ〜……マジでか……何だこれ?今時こんなヤツいるのかよ!

「でっでもよー……最近じゃ、結婚しなくてもヤるヤツいるって……知ってる?」
「ああ。入籍だけが夫婦の在り方じゃねぇしな」
「…………」
「おい、大丈夫か?」
「ああうん……ちょっと待って」

驚き過ぎて頭がパーンとなりそうだ。今までのことを整理しよう。

土方が童貞……信じられないが本当のようだ。
そんでもって、セックスは結婚相手とヤるもんだと思っている、と……それが分かれば、
ホテルに誘った時に愛してるだの俺でいいのかだの言ってた訳も納得できる。
土方にとって、セックスの誘いはプロポーズにも等しいものだったんだ。
だから俺に経験があるってことは、将来を誓った相手と辛い別れをしたのだと思っていて……

そうか……

「万事屋、具合でも悪いのか?」
「いや……」

心配そうに肩を抱く土方の腕からさりげなく抜けて、少しだけ距離をとった。

「あのな、土方……俺……」

心臓がきゅうと痛くなる。
今から俺は、どんな気持ちで土方をここへ誘ったか、これまでどんな経験をしてきたか、
説明しなきゃなんねェ……。けど言ったら確実に軽蔑されてフラれる。

土方のことが好きだ。生涯を共に、なんて考えてはいなかったけれど、土方はその覚悟を決めて
ここにいる……それがとても嬉しいと感じてしまうくらいには好きだ。
だからこそ、このまま黙ってるわけにはいかない。そんな土方の、大事な大事な「初めて」は、
俺みたいな人間が奪っていいものじゃないんだ。

「土方、俺は……」

俺は全てを話した。

土方よりもずっとセックスを軽く考えていたこと、結婚する気もない相手としていたこと、
買ったこともあれば売ったこともあること……土方はとても驚いた顔をしていたものの、
何も言わず、俺の告白を聞いていた。

「だから今日、ここに来ようって言ったのも、お前が考えるような意味じゃなくて……」
「…………」
「お前のことは好きだし、俺のこと、真剣に考えてくれて嬉しかった。けど……こんな汚れた
身体でお前と結ばれたいなんて烏滸がましいことは言えない……」
「そんなことねェだろ」

随分と久しぶりに聞いた気がする土方の声はとても優しくて、俺の心臓がまたきゅうと痛んだ。

「俺は、お前とも軽い気持ちでヤろうとしてたんだぞ?下手したら、そんなヤツに大事な初めて
奪われてたんだぞ?」
「……初めてがそんなに大事か?」
「お前は今日まで大事に守ってきたんだろ?」
「別に……相手がいねぇからヤらなかっただけだ」
「だから相手は慎重に選ばなきゃだめだ!」
「選んだ結果、テメーに決めたんじゃねぇか」
「でも俺は……」
「知るか」
「え……?」

今、知るかって言ったか?……え?何でちょっとキレてんの?
爛れた俺に軽い気持ちで誘われて腹が立つのは分かるけど、このタイミングっておかしくね?

「テメーの過去がどーとか、誘った時の気持ちがどーとか、そんなもん知るかっ。俺はテメーが
よくてここまで来たんだ。テメーも俺でいいならごちゃごちゃ言うな」
「土方……」
「どーなんだよオイ。俺でいいのか?それとも、もっと軽い気持ちでヤれる相手がいいのか?」

俺は首を横に振った。
少しはマシに見えるようセットしてきた髪が乱れるのも気にせず首を振り続けていたら、
土方の手が頭上に置かれて止まった。

「俺で、いいんだな?」
「……うん。土方が、好き。ちゃんと、好き」
「俺もだ……」

俺の肩を抱く土方……今度は抜けずに、俺も土方の腰へ腕を回した。

(12.03.19)


私は「初めて」が好きなんだなァとつくづく思います。馴れ初め話も好きですし、DTまでいかなくても男同士は初めてとか、初めて攻める/受けるとか、

恋人になってから初めてとか……初めて大好き!おかげで、似たような話ばかりですね^^; 一応、少しずつ違う設定のつもりなんですけどね。

DT攻だって土銀では初めてのはず!……あ、パラレルでやったか^^; それから、タイトルに「初」が二回入ってますけど間違いじゃありません。

後編は銀さん誘い受けの18禁となります。アップまで少々お待ち下さいませ。

追記:後編はこちら