※「トシとぎんとデートまでの時間」の続きです。








その日、銀時は朝から上機嫌であった。
仕事でもないのに早起きをして朝食を作り、神楽と昨夜は万事屋に泊まった新八を起こして
三人で食卓を囲む。

「銀さん、今日はどうしちゃったんですか?」
「んー?何が?」
「何だかとっても楽しそうじゃないですか。……最近、元気なかったから心配してたんですよ。」
「昨日、帰った時からウキウキしてたアル。……何処行ってたネ?」
「へへ〜……トシとセッ……会ってた。」

昨日土方と会った際「セックスは話をするのも恋人とだけ」と教わった銀時は、慌てて言い直す。

「土方さんに会えなくて寂しかったんですか?」
「寂しいっつーか、トシとしかできねェことがあるからさァ……」
「銀ちゃん、トッシーといちゃいちゃしたいアルか?」
「うーんと……まあ、そんなよーな……」

セックスの話をせずに、セックスしたい気持ちをどう説明したらよいものか……銀時は考え込む。
銀時が黙ったのを恥ずかしさからだと解釈した新八と神楽は微笑ましげな表情を浮かべた。

「銀ちゃん、トッシーのこと好き?」
「好きだから恋人になったんじゃねーか。」
「そうですよね。土方さんと会えると、楽しいですか?」
「ああ。俺、今までお付き合いってしたことなかったから、トシに色々教わってるんだ。」
「良かったですね。」
「次のデートはいつアルか?」
「今日。トシの仕事、昼過ぎで終わるんだって。」
「それで早起きしたんですね。」

これまで、銀時が「性」に疎いことを不安視していた二人であったが、順調に交際が進んでいる
ようだと胸を撫で下ろす。

「今日は何処でデートするネ。」
「ホテル。」
「「ぶふぅーっ!!」」

今までの和やかな一家団欒をぶち壊す銀時の発言に、新八と神楽は食べていた物を一斉に噴き出した 。

「ンだよ、汚ったねーなァ……」
「ぎっ銀さんがホテルなんて言うからでしょ!」
「そんなに驚くことか?ホテルっつっても旅行じゃねーぞ?あの、親父がやってる……」
「そんなの分かってるアル。私は泊まる所じゃなくてその前に行く所を聞いたネ!」
「えー……別に何処も行かねーよ。余計なトコ行ってたらホテルにいる時間が短くなるだろ。」
「……昼過ぎから会うのに、ずっとホテルにいるアルか?」
「ああ。」
「しょ、食事はどうするんですか?」
「あのホテル、出前取れるんだぜ。」
「明日の朝まで、ホテルから一歩も出ないつもりですか?」
「まあ、トシが外でメシ食いたいつったら出てもいいけどよー……でも、ホテルでメシ食えば
終わった後すぐに……」

セックスできるから、と続けようとして銀時は、恋人としか話してはいけないことだったと
言葉に詰まる。けれど新八と神楽の追求は続く。無垢であった銀時が交際を始めてたった数日で
ホテルに入り浸るようになるなんて信じたくはなかった。
きっと、自分達が思っているような過ごし方はしていないはず……祈りを込めて神楽が聞く。

「すぐに……何アルか?」
「えっとー……すぐに、色々、できるから。」
「色々って何ですか?」
「うーんと、うーんと……」
「私達に言えないような事アルか?そんなふしだらな子に育てた覚えはありません!」
「母ちゃん!?」
「とにかく、もっと健全なお付き合いをして下さい!」
「お前ら何か誤解してねェか?俺とトシは別に悪いことしてるわけじゃねーぞ。ただ……
恋人としかできない気持ちいいことをしてるんだ。」

セックスという単語を使わず何とか説明を試みた銀時であったが、ホテルで何をするかなど
百も承知の二人は「問題はそこじゃない」とイラつきを露わにする。

「丸一日ホテルにいるなんてフツーじゃないネ!」
「そうですよ!もっと、映画を観たり、遊園地に行ったりして……ホテルは夜になってから。」
「えーっ!そんなんじゃ足りねェよ!お前ら恋人いないから知らねェと思うけど、あれは
すっごく気持ちいいんだって!」
「「…………」」

新八と神楽は顔を見合わせ、目と目で何かを確認して頷き、銀時に向き直る。

「銀さん……今日は僕らも土方さんに会いに行きます。」
「何言ってんだよ!ホテルに行くのはトシだけ!」
「そこまでは付いていかないネ!ちょっとトッシーと話をするだけアル。」
「話って……?」
「挨拶みたいなものネ。」
「銀さんがお世話になってるんだから、同じ万事屋メンバーとして黙っているわけにはいきません。 」
「分かったよ……。でも、ささっと終わらせろよ?早くホテルに行きてェんだから。」
「それはトッシー次第アル。」
「ですね。」
「何だよまったく……」

銀時は渋々ながら折れて、約束の時間に三人で真選組屯所へ向かった。


トシとぎんと恋人だからできること


「トーシーくん!」
「銀さん……そんな友達の家に来たみたいな感じでいいんですか?」

屯所の門前で気軽に呼び掛ける銀時へ、新八が引き攣った顔で言う。
銀時は気にする様子もなく、出て来た門番に「こんにちは、トシくんいますか?」と、これまた
友達を訪ねて来たかのような口ぶりで聞く。
対する門番は事前に訪問を知らされていたようで、あっさり三人を屯所内へ通してくれた。



「トシー、来たよ〜……」
「おう。ぎ、ん……?」

恋人の来訪に笑顔で振り返った土方であったが、銀時の前に険しい顔で立ち塞がる子ども達を見て
眉を顰める。

「いきなり連れて来てごめんね……。コイツらがどうしてもトシと話したいって聞かなくて。」
「話?何だ?」
「銀ちゃんは外出てるネ。」
「はあ?お、おい……」

了解を得ぬまま神楽は銀時を廊下へ押し出し、ピシャリと襖を閉めた。
部屋に残るは土方、新八、神楽の三人のみ。何とも言えぬ緊張感が室内に漂い始め、
土方は咥えていた煙草を灰皿に押し付けて消し、「で?」と簡潔に促した。

「ドスケベニコマヨに話があるアル。」
「……喧嘩売りに来たのか?」
「土方さん、銀さんに何を教えたんですか?」

神楽とは対照的に、新八は理性的に話を切り出す。

「何のことだ?」
「銀さん、今日のデートはずっとホテルで過ごすって言ってるんですけど……」
「あの野郎また……」

頭を抱えた土方を神楽は睨み付ける。

「銀ちゃんは、お前と付き合うまで爛れた知識なんて一つもなかったネ!それをいいことに、
お前が都合のいいこと吹き込んだに決まってるアル!」
「お前らアイツが何も知らないこと、知ってたのか……」
「銀さんもいい大人ですし、土方さんも本気で愛してくれるなら、そういうことだって悪くは
ないと思いますよ?ただ、限度ってものがあるでしょう?」
「あー、そのことに関しちゃ俺も教え方を間違えたと思ってる。すまない。」

土方は二人に対して深々と頭を下げた。その態度に神楽のトーンも次第に落ちていく。

「お前がセックス教えたんだろ?」
「そうなんだけどよ……その、何つーか、ここまでハマるとは思わなくてだな……」

子ども相手にする話ではないと自覚はあるのか、土方は非常にやりにくそうに話す。

「恋人同士はそういうことをするものだって教えたんじゃないんですか?」
「そうなんだが、別に『毎回』とか『常に』とか言ったわけじゃねェし……俺だって『適度に』と
思ってんだよ。」
「じゃあ何で銀ちゃんはあんなになったネ?」
「だから、気に入り過ぎたんだろ……」
「銀ちゃんが淫乱だとでも言いたいアルか?」
「違ェよ。」

再び睨みを利かせる神楽の言葉はキッパリ否定して、

「ヤりてぇと思うのは生物として当然の欲求だ。普通はある程度の歳になれば目覚めるもんだが、
アイツは今まで無かったんだろ?」
「そうネ。」
「だが本当は無かったのではなく、知らないゆえに無意識で抑え込んでいた可能性がある。
それで今、その分の欲求が纏まって出てきているんだと俺は考えている。」
「じゃあどうすればいいネ?」
「時間が経てば落ち着いてくるだろ。……勿論、俺が責任持ってアイツの面倒を見るし、
一般的な付き合い方もちゃんと教えていくつもりだ。」
「本当アルな?絶対だぞ?」
「ああ。任せておけ。」
「よろしくお願いします。」

話を終え、三人が襖を開けるとそこに銀時の姿はなく、通りがかった隊士に聞けば応接室で
来客用の菓子を頬張っていると判り、そちらへ向かった。



「ぎん、待たせたな。」
「やっと終わったのかよ……。早くホテル行こうぜ。」
「か、菓子は美味かっただろ?」

先程は子ども達の手前「任せておけ」などと言ったが、この状態の銀時の教育は困難極まりない
ことが予想され、土方の脳裏に「前途多難」の文字が巡る。
そんなこと思いもよらない銀時は「菓子は美味いけどそれよりホテル」とせがむ。
本当に大丈夫なんだろうかと疑いの眼差しを向ける子ども達には親指を立てて、
土方は銀時を連れて繁華街へと向かって行った。



*  *  *  *  *



「やっと二人っきりになれた。さあ、セックスしよう!」
「ぎん……」

ホテルに入るなり浴室の扉を開けた銀時を宥めて、土方はまずソファに座らせた。

「何?俺、早くセックスしたいんだけど……」
「その前に話を聞いてほしい。」
「……新八と神楽に何か言われた?」
「今日のデートについて、お前がどう言ってたのかを聞いた。」
「朝メシん時のことか?アイツらしつこくてよー……セックスって言わずに説明すんの大変だったぜ 。
セックスの話はトシとだけだもんな。」
「一応、俺の言ったことは覚えてるんだな……」
「当たり前だろ。」

素直に言い付けを守る銀時を土方はとても愛しく思う。

「ぎん……お前の言ったことは間違いではない。ただな、今時のガキはセックスが何なのか
知ってるもんなんだ。」
「えっ!?新八と神楽も?」
「ああ。」
「アイツら、恋人もいねェのになんで……?」
「マセてるガキは、経験もねェのに大人の世界のことを色々知ってんだよ。」
「最近のガキはすげェな……」

これまで何も知らなかった銀時の方が珍しいのだということはさておき、土方は話を続ける。

「だからな、俺とホテルに行くなんて言ったら、セックスするんだと予測がついちまうんだよ。」
「そうだったのか〜。それでアイツら、ホテルのこと話した時に変な顔したんだな。」
「そうだ。恋人だけに話せることをお前が言うから驚いたんだ。」
「トシ、ごめんね。」
「謝ることはない。わざとじゃないんだからな。」
「これからはホテルの話もしないことにする。」
「ああ。それと、セックスばかりしてるヤツらは一般的に蔑まれるもんなんだ。」
「えぇっ!!」

銀時は今日一番の衝撃を受ける。

「何で!?好きなヤツとあんなに気持ち良くなれるのに……」
「色々なことを経験した方が、より成熟した関係だと思われる。だから、デートの度に宿へ
行くのはワンパターンで幼稚な付き合い方だと馬鹿にされちまうんだ。」
「そんなァ。俺、トシと一緒にいっぱい気持ち良くなりたいのに……」
「ぎん……」

項垂れる銀時の肩を優しく抱いて土方は言う。

「俺は今のような付き合い方でいいと思ってる。」
「トシ……?」
「どう付き合うかは二人で決めればいいことだ。無理に世間の基準に合わせることはない。」
「本当に?」
「でもな……固定観念に縛られたヤツらも多いから、俺達がしていることはあまり人前で
話さない方がいい。」
「そっかァ……折角お付き合いしてんのに、この楽しさを話せないのはつまんないな。」
「具体的なことは言わず『楽しいデートだった』とでも言えばいいだろ。そんで、色々聞かれたら
『二人だけの秘密』って言っとけ。」
「二人だけの秘密……なんかワクワクするねっ。」
「そうか……」

これで周囲から白い目で見られることはなくなりそうだと土方は安堵した。


(11.09.28)


前話を書いた時「続きは全編18禁で……」とか言ったのですが、せっかくならちゃんとシリーズ化しようと思いまして、こういう形になりました。

それからタイトルの「恋人だからできること」は別の土銀小説のタイトルでも使っていますが、一応別物です。自分で自分の作品をパクリました(笑)。

後編は18禁です。注意書きに飛びます。