その日、銀時との逢瀬を控えていた土方は、朝からソワソワと落ち着かない時を過ごしていた。
何度も時計を確認しては溜息を吐き、携帯電話を開いては通話ボタンに指をかけるだけで、
何の操作もせず再び閉じる。そんなことを繰り返す土方に、仕事の引き継ぎを受けていた近藤が
不審がって尋ねる。本日、土方は非番であるため、前日までの業務の進捗状況を近藤に伝えて
いるところであった。
「どうかしたのか?」
「あっ、いや、すまねェ近藤さん。……で、今日の巡回のルートなんだが……」
「それならさっき聞いたぞ?本当にどうしたんだ?」
「いや、何でも……」
「何か気がかりなことでもあるんだろ?俺でよければ相談に乗るぞ。」
「す、すまない。これから仕事って時に……」
「いいから話してみろ。」
このまま「何でもない」で押し通すことはできなそうで、なにより土方自身、仕事に打ち込めて
いなかったという自覚はあり、近藤に助けを求めることとした。
「実は今日、銀さんと会う約束をしていて……」
「おお、デートか!それはいいじゃないか!大いに楽しんで来てくれ。」
「だっだが、家に来るように言われて……そんなこと初めてで、俺、どうしたらいいのか
分かんなくて……何で家なんだって聞けばいいのかもしれねェが、そんなこと聞いて、
行くのがイヤなんだと思われても困るし……」
「トシは万事屋へ行ったことがなかったのか?」
「恋人になる前はあるけど……」
「それじゃあおそらく、家族にお前を紹介するつもりなんだろう。」
「家族……メガネとチャイナか?」
「そうだ。」
「二人とも、俺のことは知ってるぞ。」
この方面に疎い土方は「家族に紹介」と言われてもピンときていなかった。
「そうじゃない。恋人として、自分の大切な人として、お前を紹介するんだ。」
「大切な人……?」
「そう!そして、自分達の仲を家族に認めてもらう意味もある。」
「認めるって……」
「変な輩と交際していたら、家族として放っておけないだろ?だから家族に恋人を会わせ、
そうではないと安心させるんだ。」
「もし、認められなかったら、銀さんの恋人じゃなくなっちまうのか?」
「大丈夫だ!トシが認められないわけない!万事屋だってその確信があるから家に呼んだんだろう。」
「そうか?」
「絶対に大丈夫!自信を持って行って来い!」
豪快に笑いながら背中を叩いて励まされた土方は、まだよく分かっていないものの、やれるだけの
ことはやろうと決めたのだった。
銀さん教えてレッスン13
昼前―約束の時刻ちょうどに万事屋へ到着した土方は、緊張に震える手で呼び鈴を押した。
するとすぐに扉が開き、笑顔の銀時に出迎えられる。
「いらっしゃい、十四郎。」
「ほっ本日はお招きいただき「あー、いいよ。そんなに畏まらなくても。」
「け、けど……『家族に紹介』なんだろ?だから俺、認めてもらえるようにちゃんとしなきゃって……」
「大丈夫。十四郎のことは新八も神楽も認めてるよ。今日は一緒に昼メシ食おうと思って
呼んだだけだから。……セックス覚えたし、たまにはホテル以外もいいでしょ?」
最後の一文は、奥にいる子ども達の耳に入らぬよう、土方の耳元で囁くように言った。
その時、土方の頬にほんのり赤みが差したことを銀時は気付くことができなかった。初めて恋人を
家に招いたことで浮かれていて。
「ってことで、どーぞ。」
「お邪魔します。」
やや緊張の解けた面持ちで土方は万事屋の玄関を潜った。
「いらっしゃいアル。」
「こちらへどうぞ。」
中へ入ると土方は、新八と神楽に誘導され和室のテーブルに着く。そこには既に沢山の料理が
並べられていた。グラタン、オムライス、ハンバーグ、スパゲッティにフライドポテトにサラダに
ポタージュスープ。そして、土方の席には未開封のマヨネーズ一本。
「な、なんか、すげェな……」
「十四郎が来るからはりきったんだ。」
「ありがとう銀さん。」
「「銀さんんんん!?」」
初めて土方の口から銀時の名を聞いた子ども達は驚きの声を上げた。マズイと思った銀時が
言い訳をするより早く、二人は銀時を問い詰めていく。
「どういうことですか?僕には『さん』付け必要ないとか言っておいて!」
「あ、いや、それはだな……」
「しかもトッシーのことは呼び捨てアル!甲斐性なしのくせに亭主関白気取りアルか!?」
「そんなんじゃねーよ。」
「おいお前ら、何キレてんだ?」
事情は分からないけれど、自分の発言が切欠で銀時が責められているらしいと感じた土方は
三人の仲裁に入ろうとする。子ども達は直接土方に尋ねる。
「土方さん!何で『銀さん』なんて呼んでるんですか!?」
「な、何でって……銀さんは銀さんだろ?」
「何で『さん』付けてるアルか?銀ちゃんは呼び捨てしてるネ!」
「それはだな……」
「銀ちゃんには聞いてないネ!」
土方がマズイことを言う前に弁明しなければと口を挟んだ銀時は、神楽に窘められてこれ以上
会話に参加する権利を奪われてしまう。
十四郎の口からホテルとかセックスとか出てきませんように―そう祈ることしかできなかった。
「土方さん、どうしてなんですか?」
「それは、俺が……付き合うってこと、よく分からなくて、色々教えてもらってるから……」
「そうですか。」
「純情なトッシーを都合のいいようにしてたアルな?サイテーアル。」
「そんなことねェよ!銀さんは本当に沢山教えてくれて……」
「ほ、ほら!十四郎もこう言って……」
「どうせエロいことしか教えてないんダロ。」
「うっ……」
痛い所を突かれ言葉に詰まった銀時は、再び蚊帳の外に出される。
「土方さん、こんな人のこと丁寧に呼ぶ必要なんてないですよ。」
「そうネ。前みたく『腐れ天パ』とかで充分アル。」
「で、でもよー……恋人同士って、名前で呼び合うんじゃねーのか?」
「それ、銀ちゃんから聞いたアルか?」
「い、いや……近藤さんから。」
本当は交際初日に銀時が言っていたことであるが、子ども達の表情から真実を言わない方がよいと
判断した土方は、咄嗟に思い付いた人物の名を挙げた。
その判断は正しかったようで、子ども達からそれ以上の追求はなかった。
「恋人同士だからといって、呼び方に決まりはないですよ。」
「好きに呼べばいいアル。」
「じゃあ銀さんでも「ああああのさァ!もう教えることなんてほとんどねェし、呼び捨てで
いいよ!うん。」
土方が銀さんと呼ぶ限り事態は収拾できないと踏んだ銀時は、強引に銀時呼びへシフトさせる
ことにした。
「そうなのか?」
「そう!十四郎はもう一人前!免許皆伝!ほら、『銀時』って呼んでみて?」
「ぎ、銀時?」
「はいっ、OK!さあメシにしよう!はいっ、マヨネーズ。」
「あ、ああ……」
銀時の勢いに圧倒され、土方はマヨネーズを受け取る。
「ほらほら、お前らもメシにすんぞ。」
「「…………」」
「なに?食わねェの?」
「食べるアル!!」
「……いただきます。」
未だ冷やかな眼差しで自分を見ている子ども達には、やや挑戦的な物言いで食事を始めさせた。
* * * * *
「オムライスは私のものネ!」
「俺が作ったんだから、俺に権利がある!」
「皆で分ければいいじゃないですか!ねっ、土方さん?」
「…………」
食事が始まってしまえばいつも通り、賑やかな万事屋に戻る。けれど土方は徐々に口数が減り、
昼食開始から三十分経った頃には完全に箸が止まってしまった。
「土方さん?」
「おおああ!う、うまいなっ……」
「全然食べてないアル。」
「口に合わなかった?」
「っ!?」
銀時の手が肩に触れた瞬間、土方は勢いよく立ち上がった。
「厠、借りるっ!」
「十四郎?」
そしてそのまま逃げるようにして厠へと駆け込んだ。
「土方さん、どうしちゃったんでしょう?」
「……二人とも、悪ィんだけどメシの残りタッパー詰めて、新八ん家に行ってくれるか?」
「トッシー、病気アルか?」
「多分、仕事疲れだと思う。俺、ちょっと様子見て来るわ。」
大丈夫だからと二人の頭に手を置いて、銀時は土方のいる厠に向かった。
「十四郎ー、大丈夫〜?」
銀時が厠の扉をノックすると、扉が五センチ程開いて土方が顔を覗かせた。
「あ、あの……」
「十四郎、もしかしてエッチしたい?」
「ああああの……」
「そうなんでしょ?」
厠の中で、土方の首が僅かに縦に揺れた。
「そっか……」
「ごめんなさい。」
「いいって。いつもは会ったらすぐエッチしてるもんね。シたくなっちゃうのは仕方ないよ。
新八達には、十四郎が仕事疲れだから休ませるってことで帰ってもらうから。」
「えっ!じゃあ俺、認められないのか?」
「家族に紹介」が失敗してしまったのかと気落ちする土方を、銀時は扉を開けて抱き締める。
「大丈夫。十四郎はちゃんと認められてるから……。メシの前、俺がすげェ責められてたの覚えてる?」
「あ、ああ。」
「アイツら、俺が十四郎を大事にしてないんじゃないかって心配してたんだよ。」
「そんなこと……」
「だから『認められない』なんて思わなくて大丈夫。」
「トッシー、平気アルか?」
「やっぱ、今日のために無理して仕事詰め込んだみたい。休めば大丈夫だと思うから、
そっとしてやって。」
志村家へ行く前に様子を見に来た二人へ銀時は土方を抱き締めたまま、後ろを振り返って対応する。
「分かりました。」
「ちゃんと看病するアルヨ。」
「わーってるって。」
「あ、あの……本当にすまない。」
嵩の増してしまった下半身は銀時の陰に隠し、土方は銀時の肩口から二人へ謝罪した。
「気にしないで下さい。」
「トッシーは忙しいアルからな。……銀ちゃんと違って。」
「一言多いぞー。」
「それじゃあ、ゆっくり休んでください。」
「またネ、トッシー。」
「あ、ああ。」
土方に笑顔で手を振って、新八と神楽は万事屋を後にした。
(11.08.20)
教えてシリーズ第二章の始まりです。一回ヤって大人の余裕を身に付けた銀さんは、ホテル以外に行く余裕も身に付けました(笑)。
一方、土方さんは色々な快楽を知りますますエロエロになってしまっています。続きは18禁ですが、アップまでもう少しお待ちくださいませ。
まずはここまでお読みくださり、ありがとうございました。
追記:続きを書きました。注意書きに飛びます。→★